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マニュアル・トランスミッションのクラッチに関する記述として、適切なものは次のうちどれか。
(1)クラッチの伝達トルク容量が、エンジンのトルクに比べて過大であると、クラッチ・フェーシングの摩耗量が急増しやすい。
(2)一般にクラッチの伝達トルク容量は、エンジンの最大トルクの1.2倍~2.5倍に設定されており、トラックやバスよりも乗用車の方が、ジーゼル車よりもガソリン車の方が余裕係数は大きい。
(3)クラッチの伝達トルク容量が、エンジンのトルクに比べて過小であると、クラッチの操作が難しく、接続が急になりがちでエンストしやすい。
(4)ダイヤフラム・スプリングは、コイル・スプリングを用いたクラッチ・スプリングと比較して、プレッシャ・プレートに作用するスプリングカが均一である。
解く
(1)クラッチの伝達トルク容量が、エンジンのトルクに比べて過大であると、クラッチ・フェーシングの摩耗量が急増しやすい。
不適切
(2)一般にクラッチの伝達トルク容量は、エンジンの最大トルクの1.2倍~2.5倍に設定されており、トラックやバスよりも乗用車の方が、ジーゼル車よりもガソリン車の方が余裕係数は大きい。
不適切
(3)クラッチの伝達トルク容量が、エンジンのトルクに比べて過小であると、クラッチの操作が難しく、接続が急になりがちでエンストしやすい。
不適切
(4)ダイヤフラム・スプリングは、コイル・スプリングを用いたクラッチ・スプリングと比較して、プレッシャ・プレートに作用するスプリングカが均一である。
適切
よって答えは(4)
伝達トルク容量
クラッチは、図のようにクラッチ・スプリングの力によって、クラッチ・ディスクのフェーシング部分がフライホイールとプレッシャ・プレート間に圧着されるようになっている。
このクラッチ・スプリングによる圧着力とクラッチ・フェーシングの摩擦力によって、エンジン側からトランスミッション側に動力を伝えることができるトルクの最大値がクラッチ容量、すなわち伝達トルク容量である。この容量はクラッチ・スプリングによる圧着カ及びクラッチ・フェーシングの摩擦係数、摩擦面の有効半径、摩擦面の面積に関係する。
クラッチの伝達トルク容量が、エンジンのトルクに比べて過大であると、クラッチの操作が難しく、接続が急になりがちでエンストしやすい。また、クラッチを急につないだときは、クラッチの伝達トルク容量が大きいほど動力伝達系統に発生する衝撃的負荷トルクが大きくなるため、部品保護のためにも、クラッチの伝達トルク容量はエンジンのトルクに比べて過大であることは好ましくない。
反面、クラッチの伝達トルク容量が過小であると、接続は滑らかになるが、滑りが増加して発熱量が大きくなり、クラッチ・フェーシングの摩耗量が急増しやすい。また、温度が上昇して摩擦力が低下すると、一層滑りが増えてしまう。このため、クラッチの伝達トルク容量は、エンジンの最大トルクや自動車の種類などを考慮して、一般にエンジンの最大トルクの1.2~2.5倍(これを余裕係数という。)に設定している。
自動車質量が大きいほど、エンジンの慣性モーメントが大きいほどクラッチへの負荷は大きくなるため、乗用車よりもトラックやバスの方が余裕係数が大きく、また、ガソリン車よりもジーゼル車の方が大きい。
クラッチ・スプリング
クラッチ・スプリングには、コイル・スプリングとダイヤフラム・スプリングとがある。コイル・スプリングとダイヤフラム・スプリングの特性を比較すると、図のようになる。図の実線はダイヤフラム・スプリングの特性、点線はコイル・スプリングの特性を表している。
図において、正規取り付け位置での両者のスプリングカ(P0)を同一にした場合、最大レリーズ位置(クラッチ・ペダルを一杯に踏み込んだ位置)でのスプリングカは、コイル・スプリングの場合、P’2となるのに対し、ダイヤフラム・スプリングでは、それよりも小さいP2となり、ペダルの踏力は、リンク機構の全レバー比が同じであれば、このばね力の差だけ小さくなる。
一方、クラッチ・フェーシングが摩耗限度まで摩耗すると、コイル・スプリングの場合、スプリングカがP0からP’1へと減少するが、ダイヤフラム・スプリングではP0とP1は同じである。
したがって、以上のことを含めて、ダイヤフラム・スプリングの特長を示すと次のとおりである。
・クラッチ・フェーシングの摩耗によるスプリングカの変化が少ない。
・高速回転時、遠心力によるスプリングカの減少が少ない。
・プレッシャ・プレートに作用するスプリングカが均一である。