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前進4段のロックアップ機構付き電子制御式ATに関して述べた(イ)から(ハ)の文章の正誤の組み合わせとして,適切なものは(1)から(4)のうちどれか。
(イ)オーバラン・クラッチ・ソレノイド・バルブに異常が発生した場合は,ECUはソレノイド・バルブをOFFに制御するため,オーバラン・クラッチは解放され,D1と21を除いて,減速時のエンジン・ブレーキが効かなくなる。
(ロ)ECUにシフト・ポジション・センサ信号のうち,Dレンジ信号と2レンジ信号が同時に入力された場合は,電気的にD>2>1の優先順の制御に基づき,2レンジであっても1~4速(オーバドライブ)まで変速する。
(ハ)ライン・プレッシャ・ソレノイド・バルブに異常が発生した場合は,ECUはソレノイド・バルブをOFFに制御するため,1~4速(オーバドライブ)まで変速するが,変速ショック及びセレクト・ショック(NからD,NからR)が大きくなる。
(イ)(ロ) (ハ)
(1) 誤 正 誤
(2) 誤 誤 正
(3) 正 正 正
(4) 正 誤 正
解く
(イ)オーバラン・クラッチ・ソレノイド・バルブに異常が発生した場合は,ECUはソレノイド・バルブをOFFに制御するため,オーバラン・クラッチは解放され,D1と21を除いて,減速時のエンジン・ブレーキが効かなくなる。
不適切
オーバラン・クラッチ・ソレノイド・バルブに異常が発生した場合は,ECUはソレノイド・バルブをOFFに制御するため,オーバラン・クラッチは締結され,D1と21を除いて,減速時のエンジン・ブレーキが効くようになる。
参考
D レンジ第 1 速
シフト・レバーを D レンジにすると,マニュアル・バルブが,図 ( 1 )に示す状態になり,プレッシャ・レギュレータ・バルブからのライン・プレッシャがマニュアル・バルブを通って,フォワード・クラッチ,シフト・バルブ A , B ,オーバラン・クラッチ・コントロール・バルブ及びシャトル・シフト・バルブに掛かる。
このとき,コントロール・ユニットは,車速センサやスロットル・ポジション・センサなどからの入力信号により演算し,車速が小さく 1 速が自動車の走行に最適だと判断したら,シフト・ソレノイド A , B を ON して油路を閉じる。
このため,パイロット・プレッシャがシフト・バルブ A , B に掛かり,両方のスプール・バルブを左側へ移動させる。この位置では,ライン・プレッシャがいずれも遮断されているため,シフト・バルブ A , B より先の油路には掛からない。
一方,スロットル・バルブ開度が 1 / 16 を超える(アクセル・ペダルを実質的に踏み込んでいる状態)ときは,コントロール・ユニットは,オーバラン・クラッチ・ソレノイドを ON にし,パイロット・プレッシャが,シャトル・シフト・バルブの上方に掛かるが,マニュアル・バルブから増大されたライン・プレッシャ(アクセル・ペダルを踏み込むと,ライン・プレッシャが高くなる。)により,左側に押されたシャトル・シフト・バルブのスプール・バルブが作動して遮断される。
しかし,シャトル・シフト・バルブの下方からのパイロット・プレッシャが,オーバラン・クラッチ・コントロール・バルブを左側に移動し,ライン・プレッシャを遮断する。
したがって,フォワード・クラッチだけが作動状態となっている。
フォワード・クラッチが作動すると,トルク・コンバータからの動力は,図( 2 )のようにインプット・シャフトからリヤ・サン・ギヤ,リヤ・プラネタリ・ピニオン,リヤ・インターナル・ギヤへと伝達される。
このとき、リヤ・インターナル・ギヤは,機械的に作動するフォワード・ワンウエイ・クラッチとロー・ワンウエイ・クラッチの働きにより逆回転を抑え固定となる。
したがって,リヤ・インターナル・ギヤは固定され,このギヤの内側をリヤ・プラネタリ・ピニオンが回転することにより,リヤ・プラネタリ・キャリヤが回転してアウトプット・シャフトに動力を伝達するようになっている。
スロットル・バルブの開度が 1 / 16 以下の減速時には,オーバラン・クラッチ・ソレノイドが OFF となり,また,ライン・プレッシャはエンジン回転速度の低下により下がるため,シャトル・シフト・バルブのスプール・バルブがばね力によって右側に移動するので,オーバラン・クラッチ・コントロール・バルブのスプール・バルブに掛かっていたパイロット・プレッシャが解除されて,スプール・バルブがばね力によって右側に移動する。
すると,ライン・プレッシャがオーバラン・クラッチ・コントロール・バルプを通ってオーバラン・クラッチに掛かるため,オーバラン・クラッチが作動してアウトプット・シャフトからの回転がロー・ワンウエイ・クラッチの方へ伝達されるが,ロー・ワンウエイ・クラッチが空転するため,エンジン・ブレーキは作用しないようになっている。
2 レンジ第 1 速及び第 2 速
2 レンジの第 1 速の動力伝達経路は, D レンジの第 1 速と同様
1 レンジ第 1 速
図 に示す 1 レンジ第 1 速の動力伝達経路は, D レンジ第 1 速と同じであるが,大きな違いは,ロー・リバース・ブレーキとオーバラン・クラッチによりリヤ・インターナル・ギヤが常時固定になっているので,減速時は常にエンジン・ブレーキが作用するようになる。
(ロ)ECUにシフト・ポジション・センサ信号のうち,Dレンジ信号と2レンジ信号が同時に入力された場合は,電気的にD>2>1の優先順の制御に基づき,2レンジであっても1~4速(オーバドライブ)まで変速する。
不適切
ECUにシフト・ポジション・センサ信号のうち,Dレンジ信号と2レンジ信号が同時に入力された場合は,電気的にD>2>1の優先順の制御に基づくが,4速(オーバドライブ)への変速を禁止する。
参考
複数の信号がECUに入力した場合は,電気的には,D>2>1の優先順の入力信号となり,4速(オーバドライブ)への変速を禁止する。
ECUは表のように制御する。
(ハ)ライン・プレッシャ・ソレノイド・バルブに異常が発生した場合は,ECUはソレノイド・バルブをOFFに制御するため,1~4速(オーバドライブ)まで変速するが,変速ショック及びセレクト・ショック(NからD,NからR)が大きくなる。
適切
よって答えは(2)
参考
フェイルセーフ項目 |
内容 |
車速センサ |
車速センサは,車速センサ1と車速センサ2の2系統から入力している。そのどちらか一系統に異常が発生しても,走行が可能である。また,走行中に2系統とも,異常が発生した場合は,D,2レンジでは3速固定,1レンジでは2速固定とし走行できる。 |
ス口ットル・ポジション・センサ |
スロットル・ポジション・センサに異常が発生すると,スロットル・バルブ・スイッチのアイドル接点とフル接点のON・OFFにより表のようにスロットル開度を3段階で検知し,走行できるよう制御している。変速は1一4速(オーバドライブ)まで可能だが,変速点は高くなる。また,アイドリング時以外はライン・プレッシャが最高圧となるので,変速ショックも大きくなる。
|
シフト・ポジション・センサ |
シフト・ポジション・センサの出力は,ATの油圧回路がどのレンジを選択しているかを,ECUに知らせる役目であるが,同時に別のレンジ信号が入ったり,信号が欠落したりすると,ECUは,変速信号をどう出してよいか分からなくなるので,そのとき異常を検知すると共に,次の取り決めで変速を行うようにしている。 ・複数信号の入力時 複数の信号がECUに入力した場合は,電気的には,D>2>1の優先順の入力信号となり,4速(オーバドライブ)への変速を禁止する。 ECUは表のように制御する。 ・無信号時 ECUにセレクト位置信号が入力されない場合,直前の信号を入力信号とみなし,走行できるよう制御する。例えば,2レンジ信号が入力しなかった場合は,Dレンジから2レンジにシフトしたときは,Dレンジ信号を入力とする。また,1レンジから2レンジにシフトしたときは,1レンジ信号を入力信号とする。 実際の変速はマニュアル・バルブとの関係から表のようになる。 |
シフト・ソレノイド・バルブA,B |
走行中にシフト・ソレノイド・バルブA,Bのどちらか一方に異常が発生すると,ECUは,もう一方のソレノイド・バルブの出力を止め,3速状態で走行できるよう制御する。この制御は,Dレンジと2レンジでは3速固定だが,1レンジでは2速固定となる。また,シフト・ソレノイド・バルブA,B両方に異常が発生した場合でも同様である。 |
ライン・プレッシャ・ソレノイド・バルブ |
ライン・プレッシャ・ソレノイド・バルブに異常が発生すると,ECUは,ソレノイド・パルブをOFFにするため,ライン・プレッシャは最大に制御される。したがって,1-4速(オーバドライブ)まで変速するが,セレクト・ショック(NからD,NからR)及び変速ショック共に大きくなる。 |
口ックアップ・ソレノイド・バルブ |
ロックアップ・ソレノイド・バルブに異常が発生すると,ECUは,ソレノイド・バルブをOFFにするため,ロックアップを解除(禁止)する。 |
オーバラン・クラッチ・ソレノイド・バルブ |
オーバラン・クラッチ・ソレノイド・バルブに異常が発生すると,ECUは,ソレノイド・バルブをOFFにするため,オーバラン・クラッチを締結して,減速時に,常にエンジン・ブレーキが効くようになる。(ただし,D1、21は除く)なお,Dレンジ4速域になると(オーバドライブ・スイッチON時),ECUは,ライン・プレッシャを高くして,4速(オーバドライブ)にしている。 |
フェイルセーフ項目以外 |
内容 |
油温センサ |
(a)断線時 断線すると,抵抗は無限大(∞Ω)となり,ECUには,極低温の信号が入力することになる。したがって,極低温時の制御に基づいてライン・プレッシャは常時最大となり,セレクト・ショック,変速ショック共に大きく,4速(オーバドライブ)への変速は禁止となる。 (b)短絡時 短絡の場合は,抵抗がOΩとなるので,断線時とは逆に極高温の信号が入力されることになる。したがって,高温時は特別な制御はしていないので,通常の走行では影響は出ない。ただし,低温時の制御はできなくなる。 |