構造・機能
ここでは, ABS (ブレーキ・アシスト・システム付き),トラクション・コントロール及び VSCS について説明する。
ABS
一般的に車輪がロックすると前輪であれば操舵ができなくなり,後輪であれば車両は,非常に不安定な状態になる。
ABS は,濡れたアスファルト路面や氷雪路などの滑りやすい路面で急ブレーキを掛けても車輪がロックしないようにする装置で,下図 のように急ブレーキ時の車両の方向安定性と操縦性及び制動性能を確保している。
( 1 )車輪速度制御
ABS は,スキッド・エレクトロニック・コントロール・ユニット(以下,スキッド ECU という。)(注参照)により,四つの車輪速センサからの信号をもとに 4 輪の車輪速度を演算すると共に,車輪加速度を演算し車輪のスリップ状態を判断する。そして,その状態に応じて下図に示す三つのモード(減圧,保持,増圧)を行うソレノイド・バルブに対して制御信号を出力する。これにより, 4 輪のホイール・シリンダの油圧を制御し車輪ロックを制御している。
(注)スキッド ECU のスキッドとは,横滑りのことである。
作動
ブレーキ・ペダルを踏み込むと,ホイール・シリンダに掛かる油圧が増圧され( X ~ A 間),車輪速度が低下して,車輪速度と実車体速度との差が大きくなり,
車輪減速度が設定値( - b )より低くなると,保持信号が発生し,ブレーキ油圧をそのときの油圧に保持し,同時にあらかじめ設定された擬似車体速度がコントロール・ユニットで演算される。
更に,
車輪速度が低下して B 点までくると,
スリップ率の設定値(擬似車体速度からあらかじめ決められた値だけ低く設定された速度)より低くなるので,車輪ロックの恐れがあると判断し,減圧信号を発生して油圧を減圧する。
この減圧により,車輪加速度が増加して C 点までくると,設定値( - b )より高くなるので,保持信号を発生してブレーキ油圧をそのときの油圧に保持するが,更に,車輪加速度が増加して D 点までくると,設定値( + b )より高くなるので,車輪ロックの恐れがなくなったと判断し,増圧信号を発生してホイール・シリンダへの油圧を増圧する。以上のように増圧,保持,減圧を繰り返して油圧を制御することにより,車輪は適切な制動力を保持する。