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EPSの構成部品の異常検知に関する記述として,不適切なものは次のうちどれか。
(1)差動トランスを用いたトルク・センサの異常検知は,入力回路が受け取った信号電圧が基準電圧になったとき,発生しなくなったとき及び他のセンサ信号と比較してプログラム上一致しなくなったときに行われる。 |
(2)車速センサの異常は,検出情報と信号電圧に狂いがあっても単独では検知できない。 |
(3)操舵力特性のモード切替スイッチは,電圧の有無を使った論理信号であり,入力回路による単独での異常検知はできない。 |
(4)リニア駆動アクチュエータの機械的異常は,駆動状態によって変化する駆動信号が駆動情報と一致しているかで検知できる。 |
解く
(1)差動トランスを用いたトルク・センサの異常検知は,入力回路が受け取った信号電圧が基準電圧になったとき,発生しなくなったとき及び他のセンサ信号と比較してプログラム上一致しなくなったときに行われる。 適切→不適切 |
異常検知
(1)異常検知の範囲
マイコンが異常検知する仕組みは,図(1)に示すようにマイコンの閾値と検出信号電圧の比較が行われ,マイコンは,図(2)に示す閾値をダウン・エッジしたときに異常検知を行う。
センサの機能低下(特性異常)や各配線に接触抵抗の増大などが発生し,操舵角度,操舵速度及び操舵力それぞれの検出信号電圧が,正常な信号電圧と一致しない場合でも,図(1)の異常検知不可範囲の電圧値に入っていれば,マイコンは異常検知できずに通常制御が行われる。
(2)車速センサの異常は,検出情報と信号電圧に狂いがあっても単独では検知できない。 適切 |
センサの機能低下(特性異常)や各配線に異常(接触抵抗の増大など)が発生し,プログラムのマップ・データと検出信号電圧とが一致しない場合でも,この信号電圧がプログラムのマップ・データで設定した異常検知不可範囲の電圧値に入っていれば,マイコンは異常検知せず,通常制御が行われる。 |
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(3)操舵力特性のモード切替スイッチは,電圧の有無を使った論理信号であり,入力回路による単独での異常検知はできない。 適切 |
マイコンが異常検知する仕組みは,マイコンの閾値と検出信号電圧を比較して行うが,論理信号センサの単純センサの場合には,断線・短絡時に入力回路に入力される信号電圧値と正常時のセンサが作る信号電圧に同じものが混在することになり,5Vと 0Vをマイコンの上限値及び下限値の閾値と比較して異常と判断することができない。 また,上述した論理信号センサを使用している装置で,制御上,断線・短絡などの異常検知を必要とする場合には,ソフトウェアを使用して,当該センサの状態を別のセンサで監視・認識する機能をもたせることにより,センサ信号電圧の変化値が車両の運転上あり得ない場合などに,異常検知を可能とするものがある。 |
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(4)リニア駆動アクチュエータの機械的異常は,駆動状態によって変化する駆動信号が駆動情報と一致しているかで検知できる。 |
不適切
(ⅰ)ハードウェアによる異常検知は,駆動回路(電源からマイコンに入るまで)の回路構成の仕組みとプログラムのマップ・データを活用して,閾値より外れる作動診断信号電圧をマイコンが検出したとき,又は信号電圧なしの場合に異常検知が行われるが,主な検知対象は,アクチュエータの異常作動による停止,電源線,信号線、アース線の断線及び短絡である。
異常検知の仕組みの設定は,回路構成上の制約があり,限定的な異常検知になる。したがって,アクチュエータの駆動信号電圧などに異常が発生しても,検知不可能な部分の駆動信号電圧であれば,マイコンは異常を検知しないため,フエイルセーフ制御の運転に移行できず,装置の機能が低下したまま,運転が継続されることになる。特に安全確保,環境保全などに重大な影響を及ぼす装置では,装置の不良運転回避の目的で,装置の作動状況を監視するフィードバック・センサなどをアクチュエータに備えているものがある。
(ⅱ)ソフトウエアによる異常検知は,主にハードウェアでは検知できないものが対象となり,駆動信号電圧は正常値の範囲にあるが,駆動信号電圧などの変化値が車両の運転上あり得ないもの,又は他のセンサやアクチュエータの駆動信号電圧との類推比較で車両の運転上あり得ないものを検知対象にしている。
これらのソフトウエアによる異常検知は,より複雑・精密化した高度制御装置の異常検知に活用されている。
ここでは,異常検知の仕組みの基本であるハードウェアで行われる検知方法を主体に説明する。
異常検知を理解するには,駆動信号電圧などを作る回路と異常検知を行う診断回路の構成を理解する必要があり,前述したスイッチング駆動アクチュエータ及びリニア駆動アクチュエータに分けた構成で説明する。
よって答えは(4)