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図に示す回路において,EPS等に採用されているPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)で回転速度と方向,トルクを制御するリニア駆動アクチュエータのモータに関する記述として,不適切なものは次のうちどれか。
(1)モータに印加する電圧のデューティ比を変化させ,変化量に応じた駆動力が得られる。 |
(2)モータに印加する電圧の極性を変化させ,正転,反転の駆動を行うことができる。 |
(3)モータの停止を速やかに行うために印加している電圧をOFFしたとき,モータの両端子をオープンにし,モータ回転時に発生した慣性力による空転を抑えることができる。 |
(4)プラス駆動部はモータに電源を加える回路であり,マイナス駆動部はモータに加えられた電源をアースに接続する回路である。 |
解く
(1)モータに印加する電圧のデューティ比を変化させ,変化量に応じた駆動力が得られる。 |
(2)モータに印加する電圧の極性を変化させ,正転,反転の駆動を行うことができる。 |
(3)モータの停止を速やかに行うために印加している電圧をOFFしたとき,モータの両端子をオープンにし,モータ回転時に発生した慣性力による空転を抑えることができる。 不適切 |
(4)プラス駆動部はモータに電源を加える回路であり,マイナス駆動部はモータに加えられた電源をアースに接続する回路である。
よって答えは(3)
EPSのアクチュエータには,正転・反転駆動が可能なモータが利用され,駆動する装置にとって最適な機能のものが用いられている。アクチュエータの駆動は,マイコンからのセンサ情報と関連ECUからの周辺情報により制御マップの検索及び演算結果によりアクチュエータの駆動方法を決定し駆動を行っている。
駆動については,ECU内蔵の駆動回路から行う場合と,外部駆動ユニットにマイコンから駆動信号を出力する方法がある。
(1)リニア駆動アクチュエータの種類及び構造・機能
(1)-1 アクチュエータの種類
アクチュエータの補助動力伝達機構には,図(1)のようなラック・シャフトをアシスト・モータで駆動するラック・アシスト式と,コラム・シャフトに設けられた図(2)のようなホイール・ギヤをアシスト・モータ(ウォーム・ギヤ)で駆動してラック・シャフトにアシスト力を伝えるコラム・アシスト式とがある。コラム・アシスト式では,アシスト・モータにクラッチ機構を設けて,高速時などの補助動力を必要としないときに補助動力を遮断している。
アシスト・モータの種類
アシスト・モータは,DCブラシ・モータ,DCブラシレス・モータ(三相インバータ・モータ)などが該当する。
DCブラシ・モータでは,入力する電圧の極性を変えることで正転・反転駆動ができ,かつ,PWMを利用してデューティ比駆動することで起動トルク,回転トルク及び拘束トルク((注 1):サーボ・ロックともいう。)を任意に設定できるようになっている。
DCブラシレス・モータ(三相インバータ・モータ)では,インバータ回路により三相交流を作り周波数を可変する。正転・反転駆動は,三相の内の二相への入力電圧の順序を変えることで行い,回転速度制御は,周波数の可変で行われている。更にPWMを利用してデューティ比駆動することで起動トルク,常用回転トルク及び拘束(保持)トルクを任意に設定できるようになっている。
また,これらのモータなどでは,駆動素子((注2):FET)による駆動効率化が向上し,放熱対策に大型の放熱器を必要としなくなっている。
注1:拘束トルク(サーボ・ロック)とは,通電状態でモータの回転を止めて,制御位置を固定し,転舵角度を維持する制御に使用される。
注2:FETは,電界効果 Trの略称で,作動ベース電流が PNP又は NPNのTrなどの数mAと比べ,数μAと小さいため,省電力化と作動速度が向上している。現在,アクチュエータの回路などでは,このFETを使用した電子スイッチが主流となっている。
回路説明を分かりやすくするため,FETを Trとして表記する。
(イ)DC ブラシ・モータ
DCブラシ・モータは,図に示すもので,パーマネント・マグネット,ロータ・コイル,ブラシ,コンミュテータなどから構成され,ブラシからコンミュテータを介してコイルに電流を流して駆動する。
(a)回路構成
駆動回路の構成は,CW駆動の場合には,図のようにECUのマイコンからの信号電圧「+CW」により,+CW信号線⇒駆動回路(Trベース電流)⇒+CWTr・ ON とECUマイコンからの信号電圧「-CW」により,-CW信号線⇒駆動回路(Trベース電流)⇒-CWTr・ON により,セイフティ・リレー(12V)⇒+CWTr⇒駆動線⇒モータ⇒-CWTr⇒駆動アンプアース線⇒ボデー・アースに電流を流す回路が構成され,モータがCW駆動する。
CCW駆動の場合には,CW駆動の場合とは逆に,ECUのマイコンからの信号電圧「+CCW」により+CCW信号線⇒駆動回路(Trベース電流)⇒+CCWTr・ ONとECUマイコンからの信号電圧「-CCW」により,-CCW信号線⇒駆動回路(Trベース電流)⇒-CCWTr・ON により,セイフティ・リレー(12V)⇒+CCWTr⇒駆動線⇒モータ⇒-CCWTr・ON ⇒駆動アース線⇒ボデー・アースに電流を流す回路が構成され,モータがCCW駆動する。
DCブラシ・モータなどの固定磁界モータでは,入力電圧の極性を変えてCWとCCW駆動を行うが,入力電圧の極性変換は,図に示すように駆動TrでHブリッジ回路の構成を作り,対角の上下にある駆動Trを同時に作動(例:CW駆動時は,+CWTr・ON 状態で 12V一定駆動電圧を入力し,-CWTrをON ・OFFしてPWMの駆動電圧を作る。)させ,入力電圧の極性の反転によりモータを逆転させる。
モータのオーバラン制御には,モータ駆動のHブリッジ回路の駆動Trを使い,モータ駆動線の接続(駆動線短絡:+CWTrと+CCWTrの同時ON制御)を行い,回生ブレーキ作用を発生させてオーバラン制御を行っている。
モータのオーバロード制御では,駆動回路内にタイマ機能付きロード・リミッタが設けられ,図の駆動Trの電源側の電流センサにより,図のようにステアリング・ホイールの過負荷時(縁石ロック時など)にアシスト最大電流が一定時間を超えた場合,モータの発熱,焼損保護を目的に,図に示すモータ駆動のHブリッジ回路の駆動 Trへの電流をセーブする制御を行い,ステアリング・ホイールの負荷及びモータの発熱が通常に戻り,設定時間を満足するとロード・リミッタは自動的にリセットを行う。
なお,電流センサの種類には,シャント抵抗,非接触のCT電流センサ,ホール素子型電流センサなどがある。