3改
外部診断器に関する記述として,不適切なものは次のうちどれか。
(1)外部診断器が読み取るダイアグノーシス・コードは,ISO及びSAEの規格に準拠したアルファベット1文字と4桁の数字表示となっており,車両の異常系統が統一コード化されている。
(2)外部診断器でコード消去を行うと,ダイアグノーシス・コードとフリーズ・フレーム・データ及びエンジンECUの学習値を同時に消去するので,ECUは初期状態に戻るが,時計,ラジオ等へは影響を与えない。
(3)フリーズ・フレーム・データは,エンジンECUが異常を検出したときにダイアグノーシス・コードと同時に記億した車両の状態のデータのことで,外部診断器で読み出すことができる。
(4)アクティブ・テストとは,本来,一定の条件が成立しなければ作動しないアクチュエータを,作動条件にかかわらず外部診断器で作動させることができるテストのことをいい,停車状態で作動点検ができるため,故障診断の作業効率,安全性の向上を図ることができる。
解く
(1)外部診断器が読み取るダイアグノーシス・コードは,ISO及びSAEの規格に準拠したアルファベット1文字と4桁の数字表示となっており,車両の異常系統が統一コード化されている。
(2)外部診断器でコード消去を行うと,ダイアグノーシス・コードとフリーズ・フレーム・データ及びエンジンECUの学習値を同時に消去するので,ECUは初期状態に戻るが,時計,ラジオ等へは影響を与えない。
不適切
(3)フリーズ・フレーム・データは,エンジンECUが異常を検出したときにダイアグノーシス・コードと同時に記億した車両の状態のデータのことで,外部診断器で読み出すことができる。
(4)アクティブ・テストとは,本来,一定の条件が成立しなければ作動しないアクチュエータを,作動条件にかかわらず外部診断器で作動させることができるテストのことをいい,停車状態で作動点検ができるため,故障診断の作業効率,安全性の向上を図ることができる。
よって答えは(2)
外部診断器の活用
外部診断器は,故障診断に掛かる時間の短縮,作業者の負担軽減のため,自動車メーカ系列のディーラなどで活用されていたが,自動車メーカ専用の外部診断器は,メーカ独自で設計・開発を行っているため,メーカごとで仕様が異なり,汎用化が出来なかったが,近年の車両は,ECUとの通信方法がISO(国際標準化機構)に定められた方式を採用していることから,1台の汎用外部診断器(以下,外部診断器という。)で様々な車両から故障診断に必要な情報を読み取ることが出来るようになった。
外部診断器は,図のように,ソフトをパソコンからインストールして使用する機種や,車種別カートリッジを使用する機種などがある。
以下に外部診断器の基本機能について説明する。
(1)ダイアグノーシス・コードの表示及び消去
外部診断器は,ダイアグノーシス・コードを読み取り,画面表示することができ,ダイアグノーシス・コードは,ISO及びSAE(アメリカ自動車技術会)の規格に準拠したアルファベット1文字と4桁の数字で表示されている。
また,ダイアグノーシス・コードの消去も外部診断器から行うことができる。
(イ)診断のポイント
表1-7に示すように,従来のダイアグノーシス・コードが2桁表示程度であったのに対し,アルファベット1文字と4桁の数字の表示に変更して,異常系統を更に分割することにより,従来より異常箇所の絞り込みが容易になっている。
外部診断器は,ダイアグノーシス・コードに対応した異常系統名のデータを記憶しているため,ECUから読み出したダイアグノーシス・コードを自動的に解読し,異常系統名で表示することが可能である。従来は,警告灯の点滅などで読み取ったダイアグノーシス・コードを修理書のコード表を参照して故障内容を確認していたが,外部診断器を用いるとその手間を省くことができる。
また,ダイアグノーシス・コードの消去方法で,ヒューズを抜く又はバッテリのマイナスを外した場合,ECUの学習値や時計,ラジオ等のメモリまでリセットされてしまう場合があるが,外部診断器でコード消去を行うと,ダイアグノーシス・コードとフリーズ・フレーム・データのみの消去が可能となり,二次的な時計,ラジオなどの調整は必要ないという利点がある。
ダイアグノーシス・コードを読み取ると以下の手順により対話方式で効率よく故障を特定できる。
① カー・オーナとの問診のもと,故障診断作業を開始する。
② 図のように,ダイアグノーシス・コードの点検をする。
③ 図のように,ECUが記憶しているダイアグノーシス・コード,故障系統名を表示する。
④ 必要に応じて図のように「フリーズ・フレーム・データ表示」を選択,表示させ,ダイアグノーシス・コード記憶時のデータをもとに故障原因,箇所を特定する。
⑤ 故障個所を整備した後,図のようにECU内部に記憶されたダイアグノーシス・コードを消去する。
(2)フリーズ・フレーム・データの出力
外部診断器は,ECUがダイアグノーシス・コードを記憶したときの車両の状態を読み取ることができる。これをフリーズ・フレーム・データと呼び,ダイアグノーシス・コード記憶時,車両が走行中か停止していたのか,暖機前か後か,フィードバック状態はどうかなどが分かり,再現テストを効率よく行うことができる。
また,入庫時,再現しない不具合の場合でも,フリーズ・フレーム・データからダイアグノーシス・コードを記憶したときの車両状態を確認することができるので,問診との総合判断で不具合を特定しやすくなる。
(3)ECU のデータの出力
外部診断器は,ECUより出力されるデータを,数値又はグラフ表示することができ,必要なデータだけを選択してモニタすることができる。また,モニタを行っているデータを記録したり,設定をすることでダイアグノーシス・コード記憶時やエンスト時をトリガとしてデータを自動記録することもできる。
(イ)診断のポイント
従来の点検では,コネクタやハーネスを触っているうちに直ってしまうことがあったが,データ・モニタはコネクタやハーネスに触らなくても各種データをモニタすることができ,不具合発生時にデータ・モニタで確認すると,データの値が正常値か異常値かを判別でき,どの系統に不具合が発生しているか推測できる。
また,エンジンの息付き,ラフ・アイドルのような微妙な現象に対しては,ダイアグノーシス・コードが発生しない場合が多い。このような場合,同型車を同一条件でデータを記録して比較することで,異常系統を見付け出しやすくなる。
(a)データ・モニタ
モニタするデータを選択すると,図のようにリアル・タイムに数値又はグラフ表示を行う。基準値と比較するときは数値表示,信号の変化を捕えたいときは,グラフ表示に切り替えて使用できる。
(ロ)データ記録
外部診断器は,モニタしているデータを記録することができ,また,あらかじめ設定した条件が発生した前後のデータを記録することも可能で,不具合原因の特定が容易になる。
(ハ)保存と再生
図のように記録したデータに名前を付けてメモリ・カードなどに保存ができる。また,記録したデータ及びメモリ・カードなどに保存したデータは,データ再生することができる。
(4)アクティブ・テスト
本来,一定の条件が成立しなければ作動しないアクチュエータ(各種バキューム・スイッチング・バルブ,ソレノイドなど)を,作動条件にかかわらず作動させることができる。したがって,実走行を行わず,車両を停止させた状態で確認でき,故障診断の効率が向上する。また,停車状態で点検できるため,安全性も向上する。
例えば,ABSのブレーキ・アクチュエータ作動点検を行う場合,停止した状態でモータ及びソレノイド・バルブを強制的に駆動させることにより,制御系の不具合か,モータもしくはソレノイド・バルブの不具合かを確認することができる。
(5)CAN バス診断
外部診断器には,図(1)のようにCANバス異常時(断線,短絡など)の診断を行うことができるものや,図(2)のようにエンジンやATのECUが他のECUと行っているCANバスを介した通信状態をモニタし表示できるものがある。
(6)測定機能
外部診断器には,電圧,パルス,抵抗,温度,電流測定機能及びオシロスコープ機能をもったものもある。
(7)外部診断器の活用方法
(イ)リニア信号センサ回路系統短絡故障の場合の ECU 回路の良否判定方法
水温センサ系統を例に,ECU回路が正常か故障しているかの判定方法を説明する。
(a)水温センサ系統の短絡故障
図のように,短絡故障の場合,A点が0Vとなり外部診断器の表示は140℃(車種で異なる。)と表示する。
(b)ECU 回路の良否判定方法
図のように,ECUの入力部で回路を断線させるとA点は,5Vとなり外部診断器の表示は-40℃(車種で異なる。)と変化した場合,ECU回路は正常と判断することができる。
(ロ)論理信号センサ(スイッチ入力など)系統の短絡故障の場合の ECU 回路の良否判定方法
前項(イ)と同様な手法で,バキューム・スイッチを例に,ECU回路が正常か故障しているかの判定方法を説明する。
(a)バキューム・スイッチ系統の短絡故障
図のように,バキューム・スイッチ系統が短絡した場合,A点は0Vとなり,外部診断器はONと表示する。
(b)ECU 回路の良否判定方法
図のように,ECUの入力部で回路を断線させるとA点は,5Vとなり外部診断器の表示がOFFと変化した場合,ECU回路は正常と判断
することができる。
(ハ)周波数信号センサ系統の短絡故障の場合の ECU 回路の良否判定方法
エンジン回転センサのような周波数センサの場合,ECUは,センサから入力される信号の変化をモニタするため,前述の手法では信号の変化がないため,外部診断器の表示は常に0となりECUの良否判定はできない。
この場合は,ECUにセンサの代わりとなる疑似信号を発振器などを使って入力し,外部診断器の表示の変化を確認して良否判定をする。
(ニ)そのほかの外部診断器の活用方法
(a)リニア信号センサの特性不良の診断
水温センサには,図のような温度特性がある。
そこで,図のようにハーネスを取り付けたまま水温センサを車両から取り外し,水につけた状態で加熱する。
このときの水温の変化を温度計の指示の変化と外部診断器の表示が同じであれば,水温センサの特性は正常と判断できる。
(ホ)フリーズ・フレーム・データの活用方法
(a)活用の仕方
① データを読み出しても,不具合原因が推定できない場合
フリーズ・フレーム・データから読み出したエンジン回転速度・車速等のデータと同じ条件になるように走行し,不具合を再現させる。
② 不具合原因を推定できる場合
不具合と思われる系統を点検し,故障している部品を特定する。
(b)活用事例
不具合内容:走行時息付き
ダイアグノーシス・コード:アクセル開度センサ系統異常
フリーズ・フレーム・データ(抜粋)
・エンジン回転速度:775min-1
・車速:45km/h
・水温:85℃
・点火時期:25°CA
・アクセル開度:8.3%
(c)故障診断手順
① 入庫時,車両は正常に復帰していた。
② 外部診断器を使用して,アクセル開度を点検するとアクセルの踏み加減に同期してデータは変化しているため,ECU及びセンサは正常と判断。
③ フリーズ・フレーム・データのアクセル開度は,8.3%でアクセル開度センサの出力電圧に換算すると約0Vであるため,不具合時,ハーネスが短絡した可能性があると推定。
④ ハーネスを点検すると,カウル・サイドにかみ込みを発見したのでハーネスを交換。
⑤ 表示していたダイアグノーシス・コードを外部診断器にて消去して修理完了。