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エンジンECUの空燃比(燃料噴射量)制御に関する記述として,不適切なものは次のうちどれか。
(1)ガソリン・エンジンの噴射時間(インジェクタ駆動時間)は,各気筒の吸入空気量に対して定まる基本噴射量に,吸入空気温度やエンジン冷却水温度などの状態に応じて定まる補正を加えた時間である。 |
(2)エンジンが冷間時アイドル回転速度状態の場合は,O2センサからの信号に基づいて水温センサとバキューム・センサからの信号による補正を加えて空燃比を制御する。 |
(3)エンジンが温間時アイドル回転速度状態の場合は,O2センサからの信号に基づいて空燃比を理論空燃比付近の非常に狭い範囲に制御する。 |
(4)通常走行時には,一時的な(過渡的な)状況を補正するモードがあり,加速リッチ(増量)補正,減速リーン(減量)補正,減速時フューエル・カットがある。 |
解く
(1)ガソリン・エンジンの噴射時間(インジェクタ駆動時間)は,各気筒の吸入空気量に対して定まる基本噴射量に,吸入空気温度やエンジン冷却水温度などの状態に応じて定まる補正を加えた時間である。 |
(2)エンジンが冷間時アイドル回転速度状態の場合は,O2センサからの信号に基づいて水温センサとバキューム・センサからの信号による補正を加えて空燃比を制御する。 不適切 |
(3)エンジンが温間時アイドル回転速度状態の場合は,O2センサからの信号に基づいて空燃比を理論空燃比付近の非常に狭い範囲に制御する。 |
(4)通常走行時には,一時的な(過渡的な)状況を補正するモードがあり,加速リッチ(増量)補正,減速リーン(減量)補正,減速時フューエル・カットがある。 |
よって答えは(2)
噴射量制御
燃料の噴射量は.インジェワタのニードル・バルブのストローク量と噴射ロの面積,及び燃圧がいずれも一定のため,インジェクタのソレノイド・コイルへの通電時間,すなわち噴射時間によって決定される。
したがって,コントロール・ユニットは.エア・フロー・メータからの吸入空気量信号文はバキューム・センサからのインレット・マニホールド圧力信号と、クランク角センサからの信号をもとに基本噴射時間を求め,これに各センサからの信号による補正を加え.運転状態に適した噴射時間を演算して噴射量を決定している。
噴射時間(インジェクタ通電時間)Tは,次式のように開弁時間TAに電圧補正時間Tvを加えて求められる。
T=TA十Tv
電圧補正は次のような理由によりなされる。
コントロール・ユニットからの噴射信号がONになってからインジェクタのプランジャが実際に開弁するまでには,図のような作動遅れがある。この作動遅れの時間が電圧補正時間であり,バッテリ電圧の影響を受ける。
例えば,バッテリ電圧が低下すると,インジェクタが開弁するまでの作動遅れが長くなる。同じ噴射時間でも噴射量が減少し空燃比が大きくなる。したがって.バッテリ電圧が変わっても開弁時間を一定にするため,電圧補正時間は,図のように,バッテリ電圧が高いほど短く,低いほど長くしている。
開弁時間TAは,あらかじめエンジンの運転状態に応じてコントロール・ユニットが記憶している基本噴射時間Tpと噴射補正係数Kmにより.次式のように求められる。
TA=Tp×Km
噴射補正係数Kmは,いろいろな条件のもとで最適な運転を確保するため,各センサからの信号をもとに基本噴射時間を補正する係数で,吸気温度補正,始動後増量補正,暖機増量補正.過渡時空燃比補正,出力増量補正及び空燃比フィードバック補正などの補正係数があり,これらの各種補正係数(K1,K2,・・・KA,KB・・・)を加えたり,あるいは掛けたりして,次式のように求められる。
Km=(1+K1+K2+・・・)×KA×KB×・・・
吸気温度補正は,吸入空気温度によって空気の密度が変わるために生じる空燃比のずれを吸気温センサからの信号により補正するもので,図のように吸入空気温度が低いときは増量比を大きくして噴射量を増量し逆に高いときは小さくして減量している。なお,質量流量が測定できる熱線式エア・フロー・メータの場合には吸気温度補正は必要ない。
以下に始動時と始動後での基本噴射時間Tpの違い始動後の各種補正について説明する。
①始動時(クランキング中)の噴射時間
始動時は,インレット・マニホールド圧力又は吸入空気量が不安定なため,その信号をもとに演算を行うと噴射時間の変動が大きくなるので,冷却水温によって決定する始動時基本噴射時間Tpを図のように設定している。
始動時噴射時間Tは,始動時基本噴射時間Tpに吸気温度補正KT及び電圧補正Tvを加え次式のように求められる。
T=Tp×KT+Tv
始動時噴射では,始動性の向上を図るため,通常の噴射量より多めにすると共に,冷却水温が低温になると噴射量を増量する始動時増量補正がしてある。また,通常の同期噴射とは別に,プログラムに合致したクランク角センサからの信号がコントロール・ユニットに入力されると,その直後に1~
数回全気筒同時に一定量の非同期噴射を行っている。
②始動後の噴射時間
始動後の基本噴射時間Tpは,インレット・マニホールド圧力又は吸入空気量及びエンジン回転速度などより算出される1気筒1サイクルの吸入空気量に対して要求空燃比となる噴射時間で,Lジェトロニック方式では,次式のように求められる。
また,Dジェトロニック方式では.次式のように求められる。
インレット・マニホールド内絶対圧力x体積効率
始動後噴射時間Tは,次式のように求められる。
③フューエル・カット
フューエル・カットは,減速時,高速時及ひ高回転時に燃料噴射を停止する制御である。
減速時のフューエル・カットは,スロットル・バルブが全閉状態であり,エンジン回転速度が規定値以上のときに行われ,触媒の過熱防止及び燃費の向上を図っている。なお,フューエル・カット回転速度及び復帰回転速度は,冷却水温が低いときやエアコンONのときには高く設定している。
高速時のフューエル・カットは車速が最高車速(180km/h)を超えたときに行われる。また,高回転時のフューエル・カットは,エンジンのオーバランを防止するため,エンジン回転速度が規定値以上になったときに行われる。
④始動後増量補正
始動後増量補正は,エンジン始動直後のエンジン回転速度の安定を図るため,始動後の一定時間,始動時の冷却水温に応じて噴射量を増量するもので,補正係数は,図のように冷却水温が高くなるにつれて減少し,また,始動後は時間と共にゼロまで減少するようにしている。
⑤暖機増量補正
暖機増量補正は,暖機途中のエンジン冷間時の運転性確保のため,冷却水温に応じて噴射量を補正するもので,図のように冷却水温が低いほど補正係数は大きくなる。また,エンジンの安定性の良い高い回転速度では,増量割合を減少させるようにエンジン回転速度による補正を加えているものもある。
⑥過渡時空燃比補正
過渡時空燃比補正は,加速,減速の過渡時に増量,減量を行い,運転性と燃費の向上を図っている。加速,減速の判定は,Dジェトロニック方式では単位時間当たりのインレット・マニホールド圧力の変化量で,Lジェトロニック方式ではスロットル・バルブ開度の変化量又はエンジン1回転当たりの吸入空気量の変化量で行っている。
⑦出力増量補正
出力増量補正は,インレット・マニホールド圧力又は吸入空気量,エンジン回転速度及びスロットル・バルブ開度によって出力域を判定し、出力空燃比になるように増量するものである。
⑧空燃比フィードバック補正
空燃比フィードバック補正は,空燃比を理諭空燃比に制御するために行われる補正である。
O2センサのみで制御した場合,コントロール・ユニットは,図に示すようにO2センサの起電力を基準電圧と比較し,起電力が基準電圧より高いリッチ信号時には空燃比が論空燃比より小さい(濃い)と判定してフィードバック補正係数を図のように小さくし噴射量を一定の割合で減量する。そして空燃比が薄くなり,起電力が基準電圧より低くなってリーン信号に変わると,空燃比が理論空燃比より大きい(薄い)と判定してフィードバック補正係数を大きくし,噴射量を増量する。このようにO2センサのリッチ,リーン信号をもとに噴射量の増減を繰り返すフィードバック制御を行うことにより,空燃比は理論空燃比付近の狭い範囲に制御される。
空燃比センサは,空燃比に比例した出力特性を持つため,コントロール・ユニットはより詳細な空燃比制御を行うことができる。そのため,近年では三元触媒の上流の空燃比センサでフィードバック制御を行い下流のO2センサで補正するものがある。
なお,運転性の確保や触媒の過熱防止など安全性の確保のため,次の条件下では空燃比フィードバック補正を停止している。
・エンジン始動時および始動後増量中
・冷却水温が低いとき
・フューエル・カット時
・加減速時
・高負荷時
・高速時
・空燃比センサやO2センサが未活性状態および故障時
コントロール・ユニットは,空燃比フィードバック補正を行うことによ既理論空燃比近くになる噴射時間を知ることができる。一方,コントロール・ユニットに記憶されている基本噴射時間はほほ理論空燃比になるように設定されているが,エンジンの個々による差や経時変化によってずれが生じることがある。そのため,コントロール・ユニットは基本噴射時間が論空燃比近くになる噴射時間とずれていないか絶えずチェックし基本噴射時間が理論空燃比近くになるように学習制御補正係数を設定して制御している。これを空燃比学習制御という。したがって,空燃比センサやO2センサによる空燃比フィードバック補正量は常にわずかな量になっている。