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コモン・レール式高圧燃料噴射システムに関する記述として,不適切なものは次のうちどれか。
(1)高圧化した燃料をコモン・レールに蓄えることで,エンジンの要求に合った安定した噴射圧力を確保できるため,エンジン性能を向上できる。 |
(2)噴射時期を最適に制御することで燃料の拡散を促進し,燃焼温度が低く抑えられてNOxの発生を低減できる。 |
(3)エンジンの回転速度が規定の回転速度以上になるとパイロット噴射を止め、通常の2段噴射方式に切り替える。 |
(4)燃料の微粒化により,燃料の総表面積が大きくなり,周囲の吸入空気や熱とよく触れ合うことで良い燃焼状態となり,PM(粒子状物質)の生成を低減できる。 |
解く
(1)高圧化した燃料をコモン・レールに蓄えることで,エンジンの要求に合った安定した噴射圧力を確保できるため,エンジン性能を向上できる。 |
(2)噴射時期を最適に制御することで燃料の拡散を促進し,燃焼温度が低く抑えられてNOxの発生を低減できる。 |
(3)エンジンの回転速度が規定の回転速度以上になるとパイロット噴射を止め、通常の2段噴射方式に切り替える。 |
(4)燃料の微粒化により,燃料の総表面積が大きくなり,周囲の吸入空気や熱とよく触れ合うことで良い燃焼状態となり,PM(粒子状物質)の生成を低減できる。 |
概要
ジーゼル・エンジンは,ガソリン・エンジンのようなノッキングを生じないため圧縮比を高くすることができる。さらに,吸気の絞りを行う必要がないため,ほとんどの領域で空気過剰の希薄燃焼になる。空気が多く希薄燃焼になるため,排気温度も低くエンジンの耐久性もあり, CO (一酸化炭素) , HC (炭化水素)の発生も極めて少ない。しかし,排気ガス中に O2 (酸素)が多く存在するので,ガソリン・エンジンに使用されている三元触媒が,多量の O2 による触媒の効率低下のために使えない。そのため NOx (窒素酸化物)の低減が難しい。また,ジーゼル・エンジンは,一種の層状燃焼であり,燃焼は燃料噴射近傍のところで行われ,局部的空気不足を生じやすく, PM ( Particulate Matter :粒子状物質)(注参照)生成の問題を生ずる。
ジーゼル・エンジンでは,特に,排気ガス中に合まれる有害な大気汚染物質となる PM , NOx をそれぞれ低減させることが最も重要になってくる。 PM は,完全燃焼させることで低減させることができるが, NOx は,完全燃焼すると燃焼ガス温度が高くなるため,より多く生成される。この PM と NOx は,同時に両者を低減することは,困難な関係にある。
この問題を解決するためには,コモン・レール式高圧燃料噴射システムのように噴射圧力を高圧化することで液体の燃料を微粒化させ,微粒化したことで総表面積が大きくなり周囲の吸入空気や熱とよく触れることになり,良い燃焼状態になり PM の発生が低減する。さらに,微粒化したことで着火性が良くなるため噴射タイミングを遅角させることができ,着火遅れや燃焼期間が短くなることにより燃焼温度が低くなるため,NOx の生成も低減できる。
コモン・レール式高圧燃料噴射システムでは,図 4 - 1 に示すようにサプライ・ポンプで作られた高圧燃料をコモン・レールと呼ばれる高圧貯蔵室に蓄えており,エンジンの運転状態などを検出する各センサからの信号をもとにエンジン ECU が最適な噴射量と噴射時期を決定し,エレクトロニック・ドライビング・ユニット(以下, EDU という。)を介して電磁式インジェクタに通電することにより燃料を噴射している。
( 1 ) 従来の電子制御式分配型インジェクション・ポンプでは,インジェクション・ノズルの最大噴射圧力はエンジン回転速度や負荷の影響を受け,全回転域に渡って良好な噴射圧力を得ることが難しかったが,コモン・レール式高圧燃料噴射システムでは,高圧燃料をコモン・レールに蓄えることで,常に安定した噴射圧力を確保できるためエンジン性能が向上する。
( 2 )コモン・レールと電磁式インジェクタを使用することにより,インジェクタ内の燃料に常に高い圧力が掛かっているため,電子制御式分配型インジェクション・ポンプに比べ,噴射量及び噴射時期をエンジン ECU でより精密に制御できる。
( 3 )燃料噴射を 2 段階に分割し,メイン噴射の前に補助的なパイロット噴射を行うことによりメインの燃焼が緩やかに開始するため,エンジンの振動及び騒音を低減できる。さらに,噴射時期を最適に制御することにより燃料の拡散を促進し,燃焼温度が低く抑えられるため,黒煙及び NOx の排出量を低減することができる。また,この噴射システムでは,燃焼速度を速めることができるため,良好な燃焼を確保できる。
パイ口ット噴射制御
補助的な噴射であるパイロット噴射は,図に示すように圧縮行程の早い段階で噴射される。このとき噴射した燃料は,自己着火しないで燃焼室内に拡散し,空気と混ざった予混合状態にして,冷炎反応状態(燃焼し易い状態)のまま保持される。この状態からピストンが上死点を過ぎ,シリンダ内の温度が下がり始めた所でメイン噴射が行われるため,このとき噴射された燃料もすぐには自己着火せず,拡散して予混合状態となってから,冷炎反応状態のパイロット燃料の作用を受け急速に燃焼する。このような燃料噴射制御を行うことにより,噴射した燃料と空気とを十分混合させてから燃焼させることができるため黒煙が低減できる。また,メインの燃焼の開始を緩やかにすることで,最高燃焼温度が低下することにより NOx の排出も低減できる。ただし,ある程度エンジンの回転速度が上昇するとパイロット噴射を止め,通常の噴射方式に切り替えている。
なお,パイロット及びメインの噴射量は,各々についてエンジンの状態から算出し,各種センサによる補正を加え決定した後,レール圧に応じてインジェクタへの通電時間を制御している。また,メインの噴射時期及びパイロット噴射とメイン噴射の間隔についても同様の方法で決定している。
よって答えは(3)