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電子制御式ATの電源回路に関する記述として,不適切なものは次のうちどれか。
(1)安定化電源は,AT・ECU内のアナログ回路,マイコン回路,センサ回路及びアクチュエータ回路の電源として使用するものであり,バッテリ電圧を基に安定化された電源で,バッテリ電圧がある程度変動してもー定の電圧を作っている。 |
(2)クランキング時に,バッテリ電圧とAT・ECU電源電圧が同じで,安定化電源端子に発生する電圧が5V±0.25Vを外れる場合は,イグニション・スイッチやインヒビタ・スイッチの異常が考えられる。 |
(3)クランキング時に,スタータ・モータや電子制御回路を作動させるためにもバッテリ端子電圧は9Vを下回らないことが必要である。 |
(4)イグニション・スイッチ,インヒビタ・スイッチがON時に,AT・ECU電源端子電圧が9V以上で,安定化電源端子電圧が5V-0.25V未満のとき,AT・ECU電源回路とアース回路を確保したまま,センサ及びアクチュエータ回路の端子をすべて外して回復しなければ,AT・ECU内の電源回路の異常である。 |
解く
(1)安定化電源は,AT・ECU内のアナログ回路,マイコン回路,センサ回路及びアクチュエータ回路の電源として使用するものであり,バッテリ電圧を基に安定化された電源で,バッテリ電圧がある程度変動してもー定の電圧を作っている。
適切
電源回路
電源は,装置全体に電力を供給するバッテリ電源(ここでは公称12Vを例に説明する。)及びオルタネータの発生電源(以下,これらの電源を12V電源という。)から構成され,これらの12V電源をもとにECU内で5V安定化電源(ここでは5Vを例に説明する。)が作られる。
12V電源は,電力使用量が変動しても電力供給量が十分に確保されるものでなければならない。また,5V安定化電源は,装置の作動状態により規定値を外れないことが絶対条件となる。なお,電源回路は,エンジン及びシャシにおいて,特別な要件のある場合を除き,共通した電源回路を用いることとする。
1)電源回路の構成
図に電源回路の構成の一例を示す。
(1)12 V 電源回路
12V電源回路は,ECUの電源及びアクチュエータの駆動電力用電源として用いられると共に,エンジン停止時には,各装置のデータなどのバックアップ電源として使用されている。また,ECUには,供給される電源電圧の最小規定値と最大規定値が定められており,最小規定値を下回るとECUは,その機能を停止し,最大規定値を上回るとECU回路の破壊が起こる。したがって,電子制御装置を正しく作動させるために規定電圧を維持する必要があり,バッテリの充電装置であるオルタネータは,電源供給の基幹装置として,この役目を担っている。
(2)5 V 安定化電源回路
5V安定化電源回路は,マイコン,ECU内の出力回路,入力回路,駆動回路などに供給される5V安定化電源を作る回路である。
5V安定化電源回路には,12V電源の変動及びECUの回路負荷が作用しても,常に一定の規定電圧値を維持できることが絶対条件とされ,おおよそ5V±0.25Vの範囲を
基準値として電力が供給されている。
5V安定化電源回路では,図のようにAとBに分配されたものや,分配なしの単独のもの,また,マイコン,ECU内の出力回路,入力回路,駆動回路などそれぞれに分配されたものなどがある。
(2)クランキング時に,バッテリ電圧とAT・ECU電源電圧が同じで,安定化電源端子に発生する電圧が5V±0.25Vを外れる場合は,イグニション・スイッチやインヒビタ・スイッチの異常が考えられる。 不適切 |
(3)クランキング時に,スタータ・モータや電子制御回路を作動させるためにもバッテリ端子電圧は9Vを下回らないことが必要である。 適切 |
(4)イグニション・スイッチ,インヒビタ・スイッチがON時に,AT・ECU電源端子電圧が9V以上で,安定化電源端子電圧が5V-0.25V未満のとき,AT・ECU電源回路とアース回路を確保したまま,センサ及びアクチュエータ回路の端子をすべて外して回復しなければ,AT・ECU内の電源回路の異常である。 |
適切
よって答えは(2)
電源系統の点検
電源系統(ここでは12V電源を例にする。)の点検は,次に挙げる各条件について,図のV1~V6の電圧測定を行い,規定値(12V以上,電圧なしクランキング時9V以上)にあることを点検する。
(イ)パッテリの無負荷時及び負荷時(エンジン停止状態で灯火類などの一部負荷を作動)の電圧が規定値の範囲にあり,この測定値がバックアップ端子,ECU及びアクチュエータの電源端子にそれぞれ発生していること。
①イグニション・スイッチをOFFにして無負荷時のV1が12V以上であること。V1と同じ測定値がV2に発生(電圧値が変動しないこと。)していること。
②イグニション・スイッチをONにして負荷時のV1が12V以上であること。V1と同じ測定値がそれぞれV1,V2,V3に発生(電圧値が変動しないこと。)していること。
③上記①と②の点検において,無負荷時のV1及び負荷時のV1に著しい電圧差がないこと。
(ロ)すべてのアース端子に電圧が発生しないこと。
①イグニション・スイッチがOFF及びONいずれの場合も,V5,V6には電圧が発生しないこと。
(ハ)12V電源がクランキング時の負荷に適切に対応していること。
①クランキング時にV1が9V以上であること。
②オシロスコープでクランキング時の経過的なV1電圧を確認し,常にV1に9V以上の電圧値が確保されていること。
・上記の電源系統の点検を行った結果,規定値から外れる場合は,パッテリの劣化のほか,配線の導体抵抗,接続部の接触抵抗などの不具合により,その回路を流れる電流量に応じた電圧降下で電力の損失が発生し,ECU,アクチュエータへの電力供給量が不足することが推測できるので,不具合箇所の整備が必要となる。
(2)イグニション・スイッチON時,V2に電圧の発生があるときは,スイッチの接触抵抗増大の可能性がある。
適切
電源回路の点検
電源系統の点検において,規定値から外れる電圧差が発生していると予測される回路上の接続部及び配線間を確認すること。
回路の点検は,次に挙げる測定条件下で,図のV1~V7の電圧測定を行う。
測定条件:エンジン停止状態,イグニション・スイッチON時において,ECUのアース端子からホデー間に流れる電流には,電源に直接接続されている他のセ
ンサ及びアクチュエータなどの電流も流れているため,該当するセンサ及びアクチュエータなどが作動している条件下で測定すること。
①回路接続部V1,V3に測定条件の電流が流れる状態で,それぞれV1,⑩V3に電圧が発生していないこと。
V1に電圧の発生があれば,ヒュージプル・リンクの異常(断線,接触抵抗などの増大)が推測でき,V3に電圧の発生があれば,スイッチの異常(断線,接触抵抗などの増大)が推測できる。
②回路接続部以外の配線間に測定条件の最大電流が流れる状態で,それぞれV2,V4,V5に電圧が発生していないこと。
電圧の発生があれば,その電圧計の測定端子間の配線の異常(断線,接触抵抗などの増大)が推測される。
③ECUのアース接続は,V6の線間電圧及びV7の接地電圧が発生していないことで,ECUのアース端子及びアース線,ボデー・アース・ターミナルの接続が適切であることを確認する。
(3)イグニション・スイッチON時,V3の電圧が5.25Vを超えるときは,ECUの5V安定化電源端子とセンサ電源線の接触不良の可能性がある。
不適切
5V安定化電源の回路点検
5V安定化電源の点検は,イグニション・スイッチのON時と最大負荷時(クランキング状態で灯火類などの負荷を作動)にECU内5V安定化電源端子に発生する基準電圧(5V±0.25V)が一定で変動しないことを確認する。回路点検は,次に挙げる測定条件下で,図のV1~V3の電圧測定を行う。
①イグニション・スイッチのON時にV1が基準値(5V±0.25V)にあること。5.25V超の電圧が発生しているときは,ECU内5V安定化電源回路の異常が推測できる。
②クランキング時にV3が12Vを下回った場合でも,V1が基準値(5V±025V)の範囲内で,かっ,電圧値が常に一定に保持されていること。
③クランキング時にV2とV3に電圧差が発生し,V1が不安定な電圧になり,電圧変動幅も基準値(5V±0.25V)の範囲を外れている場合は,前述の「(2)電源回路の点検」により原因を推測し,12V電源の電圧変動幅が規定値の範囲に入っていればECUの点検を行う。
・5V安定化電源回路系統に短絡が発生すると,V1には基準値(5V±0.25V)の電圧が発生しない。
この場合は,5V安定化電源の電源線端子をECUから切り離し,ECU側の5V安定化電源端子に基準値(5V±0.25V)の電圧が発生すれば,センサ及びセンサの電源線の異常が推測でき,逆にECU側に基準値(5V±0.25V)の電圧がなければECUの異常が推測できる。