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スチール・ベルト式無段変速機(CVT)に関する記述として,不適切なものは次のうちどれか。
(1)動力の伝達は,個々のスチール・ブロックがプーリと接触しながら次々と前側のブロックを押して動力を伝える圧縮型のベルトで行っている。 |
(2)各プーリの可動シーブを同じ向きに配置することにより,変速に伴ってプーリの溝幅が変化してもスチール・ベルト中心を同じにできる。 |
(3)運転条件に応じたライン・プレッシャを,セカンダリ・プーリの油圧室にかけ,スチール・ベルトの動力伝達に必要なベルト張力を制御している。 |
(4)スチール・ブロックを連結する2本のスチール・バンドは,スチール・ブロックの左右溝に挿入されている。 |
解く
(1)動力の伝達は,個々のスチール・ブロックがプーリと接触しながら次々と前側のブロックを押して動力を伝える圧縮型のベルトで行っている。 適切 |
スチール・べルト
スチール・べルトは,図 のように数百個の厚さ 2mm のスチール・ブロックと,このスチール・ブロックを帯状に連結する 2 組のスチール・バンドで構成されている。
スチール・べルトは,ゴム・べルトやチェーンのように引っ張り作用で動力を伝達するものとは異なり,スチール・ブロック一個一個がプーリと接触しながら,次々と前側のブロックを押して動力を伝える圧縮型のべルトである。このため,ブロックは平板ではなく特別のふくらみを持った形状にしてブロック全体で動力を分担し,応力集中がないように設計されている。また,図のようにブロックの小さな凸部と凹部で相互の位置決めをしている。
ブロックを連結する 2 本のスチール・バンドは,ブロックの左右溝に挿入されている。
スチール・バンドは,絶えず径方向に折り曲げられて内径側には,圧縮応力,外径側には,引っ張り応力が発生する。この応力は,板厚が薄い方が小さくなるので,厚さ約 0 . 2 ㎜のリング状スチール板を使用し,かつ,強度を確保するために,このバンドを 9 枚緊密に重ねた構造となっている。
重ねられたバンドは,自由状態では,直径約 200mm の円形で,隣り合った個々のバンドは,板厚分の長さを変えて,しっくりとかん嵌合するように精密に製造されている。内径側のバンド長さと外径側バンド長さの差はπ(0.2×2×9)=11.3㎜あることになる。円形のバンドをプーリに巻き付けた場合,図 のようになるが,径がどのように変化しても半円形部の内外径差は 11.3㎜であり 9 枚の個々のバンドが周方向に滑り合うことはなく,柔軟性を持った 1 本のバンドとして荷重を受けることができる。
バンドは,耐摩耗性と強じん性が要求され,高純度のマレージング鋼(注参照)が使用されている。
スチール・ブロックは,プーリに挟まれて接触面の摩擦力で動力を伝達するため,伝達動力に見合った押し付け力 → スチール・バンド張力 → べルト張力が必要になる。
柔軟性のあるスチール・バンドに支えられ,ある程度自由に動くことができる多数のブロックがプーリ斜面に押し付けられるので,それぞれのブロックが確実に斜面と接触し,効率よく動力の伝達が行われる。
( 注 ) マレージング鋼とは,航空宇宙用として開発された高強度と強じん性を両立する極めて特殊な素材である。
(2)各プーリの可動シーブを同じ向きに配置することにより,変速に伴ってプーリの溝幅が変化してもスチール・ベルト中心を同じにできる。
不適切
CVT では,可動シーブを図のように対向配置することにより, LOW 側からオーバ・ドライブ側に変速することに伴ってスチール・べルトは軸方向に移動するが,べルトの中心線はほぼ一直線を保って平行移動するようになっている。
(3)運転条件に応じたライン・プレッシャを,セカンダリ・プーリの油圧室にかけ,スチール・ベルトの動力伝達に必要なベルト張力を制御している。
適切
セカンダリ・プーリの油圧室には,ライン・プレッシャを掛け,そのときの伝達動力に必要な接触面押し付け力(べルト張力)を与えている。ベルト張力は,入力トルクの大小と共に高速で回転するスチール・ベルトの遠心力も考慮して設定されている。
プライマリ・プーリの油圧室には,変速に必要なプライマリ・プレッシャを加えるようになっている。プライマリ・プーリの油圧室の受圧面積は,図 のようにセカンダリ側の面積より大きいため,ライン・プレッシャより小さな圧力で溝幅を制御できる。また, CVT は連続して変速し,遊星歯車式 AT のように変速を飛ばすことができないので,高速からタイヤがロックするようなブレーキ停止時には,ブレーキング開始から停止までにダウン・シフトを完了しなければならない。このため,高い変速速度が得られるように油圧系が構成されている。
(4)スチール・ブロックを連結する2本のスチール・バンドは,スチール・ブロックの左右溝に挿入されている。
適切
よって答えは(2)