自動車整備士試験勉強 始めました~(^^♪

自動車整備士資格試験を解く

スチール・ベルト式無段変速機(CVT):book3

自動車整備士資格の勉強始めました

 

2 構造・機能
1 )構成部品の構造・機能
( 1 )システムの構成
システムは,油圧制御システムを含むトランスミッション,電子部品を統合制御する AT ・ ECU ,各種センサ,運転者操作のスイッチ及びセレクト・シフト機構,インパネ表示部などから構成されている。
図 は,エンジンから車輪に動力を伝える機構である□に対する各制御システムの関係を示している。
 

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( 2 )変速機構
スチール・べルト式 CVT の変速機構は,図 のように油圧によってプーリの溝幅が軸方向に任意に移動できる一対のプーリとスチール・べルトによって構成されている。

 

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変速は,駆動側プーリ(プライマリ・プーリ)出力側プーリ(セカンダリ・プーリ)のべルトの巻き付け径を変えて行っている。

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べルトの巻き付け径は,プーリの溝幅によって変わり,プライマリ・プーリの油圧制御により行っている。
プライマリ・プーリの油圧を高くすると,溝幅が狭くなることによって巻き付け径が大きくなり(オーバ・ドライブ側),逆に,油圧を低くすると,溝幅が広くなって巻き付け径が小さくなる( LOW 側)。
セカンダリ・プーリには,常に運転条件に応じたライン・プレッシャを掛け,動力伝達に必要なべルトとプーリ間の摩擦力を得られるようにべルト張力を制御している。
このように,ライマリ側の油圧制御により,変速制御を行い,セカンダリ側の油圧制御により,べルト張力制御を行っている。

 
 
(イ)スチール・べルト
スチール・べルトは,図 のように数百個の厚さ 2mm のスチール・ブロックと,このスチール・ブロックを帯状に連結する 2 組スチール・バンドで構成されている。

 

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スチール・べルトは,ゴム・べルトやチェーンのように引っ張り作用で動力を伝達するものとは異なり,スチール・ブロック一個一個がプーリと接触しながら,次々と前側のブロックを押して動力を伝える圧縮型のべルトである。このため,ブロックは平板ではなく特別のふくらみを持った形状にしてブロック全体で動力を分担し,応力集中がないように設計されている。また,図のようにブロックの小さな凸部と凹部で相互の位置決めをしている。

 

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ブロックを連結する 2 本のスチール・バンドは,ブロックの左右溝に挿入されている。
スチール・バンドは,絶えず径方向に折り曲げられて内径側には,圧縮応力,外径側には,引っ張り応力が発生する。この応力は,板厚が薄い方が小さくなるので,厚さ約 0 . 2 ㎜のリング状スチール板を使用し,かつ,強度を確保するために,このバンドを 9 枚緊密に重ねた構造となっている。

 

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重ねられたバンドは,自由状態では,直径約 200mm の円形で,隣り合った個々のバンドは,板厚分の長さを変えて,しっくりとかん嵌合するように精密に製造されている。内径側のバンド長さと外径側バンド長さの差はπ(0.2×2×9)=11.3㎜あることになる。円形のバンドをプーリに巻き付けた場合,図 のようになるが,径がどのように変化しても半円形部内外径差は 11.3㎜であり 9 枚の個々のバンドが周方向に滑り合うことはなく,の柔軟性を持った 1 本のバンドとして荷重を受けることができる。

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バンドは,耐摩耗性と強じん性が要求され,高純度のマレージング鋼(注参照)が使用されている。
スチール・ブロックは,プーリに挟まれて接触面の摩擦力で動力を伝達するため,伝達動力に見合った押し付け力 → スチール・バンド張力 → べルト張力が必要になる。
柔軟性のあるスチール・バンドに支えられ,ある程度自由に動くことができる多数のブロックがプーリ斜面に押し付けられるので,それぞれのブロックが確実に斜面と接触し,効率よく動力の伝達が行われる。
( 注 ) マレージング鋼とは,航空宇宙用として開発された高強度と強じん性を両立する極めて特殊な素材である。

 

(口)プーリ
図 のようにプライマリ・プーリ及びセカンダリ・プーリは共に同一傾斜面を持つ固定シーブと可動シーブ(注 1 参照)が対向配置(点対称)され,可動シーブ側背面に油圧室(チャンバ)を設けている。

 

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可動シーブはボール・スプライン(注 2 参照)により軸上を移動しながらプーリの溝幅を変えている。
最大変速比( LOW )におけるスチール・べルトの最小巻き付け半径は,伝達トルクに対するスチール・バンドの許容応力で決まり,この最小巻き付け半径と設定変速比により,プーリ径,プライマリ及びセカンダリ・プーリの軸間距離が設定されている。
図 は,傾斜角 α のプーリにスチール・べルトのブロックが接触している状態である。

 


プーリの中心方向への押し付け力を F (べルト張力)とすると,これに対抗する力 Q が斜面に対して β (注 3 参照)の角度で作用する。
斜面に直角に加わる力 W との関係は,
F = Qsin ( α + β ) x2 W = Qcos β
W と Q は比例関係にあり, F , β を一定とすると傾斜角 α が小さいほど Q ,すなわち, W が大きくなり,摩擦力μW が増加する。一方,べルト巻き付き径を変える可動シーブのストロークも α によって決まってくる。したがって傾斜角 α はスチール・ベルトの強度,プーリ傾斜面の面強度,制御油圧,制御速度などによって最も効率の良い角度に設定されている。
セカンダリ・プーリの油圧室には,ライン・プレッシャを掛け,そのときの伝達動力に必要な接触面押し付け力(べルト張力)を与えている。ベルト張力は,入力トルクの大小と共に高速で回転するスチール・ベルトの遠心力も考慮して設定されている。
プライマリ・プーリの油圧室には,変速に必要なプライマリ・プレッシャを加えるようになっている。プライマリ・プーリの油圧室の受圧面積は,図 のようにセカンダリ側の面積より大きいため,ライン・プレッシャより小さな圧力で溝幅を制御できる。また, CVT は連続して変速し,遊星歯車式 AT のように変速を飛ばすことができないので,高速からタイヤがロックするようなブレーキ停止時には,ブレーキング開始から停止までにダウン・シフトを完了しなければならない。このため,高い変速速度が得られるように油圧系が構成されている。
 

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(注 1 )シーブ:滑車輪( sheave )
(注 2 )ボール・スプライン:スチール・べルトの張力を受けながら軸方向にスムーズに移動できるように,スプライン加工した溝にボールを配し,ボールの転がりによって移動させる。 ボール・スプライン部のガタはスチール・ブロックの接触傾斜面に影響を与えるため,ボール・スプライン部は軸方向に長い構造にして,ガタの影響を極力小さくしている。
(注 3 ) β は摩擦角といい,斜面上の物体が滑り始める角度で材料や面のあらさなどで決まる角度である。

 

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CVT では,可動シーブを図のように対向配置することにより, LOW 側からオーバ・ドライブ側に変速することに伴ってスチール・べルトは軸方向に移動するが,べルトの中心線はほぼ一直線を保って平行移動するようになっている。
 

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